【特集】日中フードデリバリー最前線
成熟する日本、加速する中国──2025年の業界比較から見える未来
パンデミックを契機に爆発的に成長したフードデリバリー市場。だが2025年現在、その姿は国によってまったく異なる方向へと進化している。
この記事では、日本と中国のフードデリバリー市場の今を比較分析し、どこで道が分かれたのか、そして日本がこの先どう進むべきかを掘り下げてみる。
■ 1. 市場規模と成長スピード
中国:再び成長期へ突入
- 利用者数:5.45億人(インターネット利用者の50%以上)
- 新規企業:2024年だけで11,000社以上が登録
- 主要プレイヤー:美団(Meituan)、餓了麼(Ele.me)、京東(JD.com)
2025年2月、EC大手の京東が「京東到家」を立ち上げ参入。新規参入ながら加盟店に手数料1年無料などのインセンティブを提示し、約20万件の申し込みを獲得。中国市場はまだまだ「拡大フェーズ」にある。
日本:ピークを過ぎ、踊り場に
- 利用者数:約1,000万人程度(横ばい)
- 主要プレイヤー:Uber Eats、出前館、menu
- 加盟店数:2022年をピークに減少傾向
コロナ禍で爆発的に伸びた市場だが、現在は「定常利用者」のみが残り、過剰供給+価格競争+人材不足というトリプルパンチ。成長余地は限定的と見られている。
■ 2. 労働環境と配達員の待遇
中国:フルタイム化・正社員化が進む
京東は、フルタイム配達員を10万人規模で雇用すると発表。社会保険、労災補償、安定給与を用意し、職業としての地位を確立しようとしている。
美団やEle.meもこの動きに追随し、配達員の待遇改善を全面に押し出す競争が始まった。
日本:未整備な“ギグワークモデル”
一方、日本の配達員は現在も個人事業主扱いが主流。事故や病気時の補償がないだけでなく、報酬単価も低下傾向にあり、2024年〜2025年にかけて離職者が増加。
「フードデリバリーを職業として成り立たせる」ための議論や制度整備は、ほぼ進んでいないのが現状。
■ 3. 技術導入と配送革新
中国:ドローン・無人配送が現実に
京東や美団ではすでにAIによる配達最適化、ドローン・ロボット配送の実用化が進んでいる。一部都市では、人間の配達員を使わない「全自動配送」が始まっている。
政府もこの流れを後押ししており、都市・農村問わずデリバリーインフラが再構築されつつある。
日本:実証実験は進むが、社会実装は遠い
日本でもドローン配送やロボットによる実証実験は進んでいるものの、法律・地域合意・コストの壁が大きく、導入が進んでいない。技術面での“進化スピード”に大きな差が生まれている。
■ 4. なぜここまで差がついたのか?
【中国の強み】
- 国の後押し(資金・制度)
- 業界横断での技術投資
- ローカル市場への適応力(地方・高齢者)
【日本の弱み】
- 過剰な中間マージンと高コスト構造
- 規制と制度の遅れ
- フードデリバリーを“職業”と捉えない社会認識
■ 5. 日本が取るべき次の一手
- 労働環境の見直し
- 配達員の最低保障や保険制度の整備
- 加盟店支援策の再構築
- 高すぎる手数料の見直し、サポート型サービスの充実
- 地方・高齢者向けサービスの拡充
- 買い物難民対策と連動した「デリバリー+生活支援」モデル
- 技術導入の社会実装を急ぐ
- ドローン、ロボット配送を法制度込みで前進させる
■ 結論:日本の未来は「仕組みの再設計」から始まる
中国のフードデリバリー市場がなお加速を続ける一方で、日本は“制度の壁”と“想像力の欠如”により、足踏み状態にある。
だが、今こそ問い直すときだ。
「フードデリバリーとは、ただの食事の運搬か? それとも、新しいインフラか?」
日本がもう一度成長するためには、配送=仕事/技術/生活支援という視点を持ち直す必要がある。
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